原告女性警視庁の警察官から人種差別的で違法な対応を受けたとして、南アジア出身の女性と子ども(事件当時3歳)が東京都に損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、東京高裁(萩本修裁判長)は10月16日、原告側の請求を棄却した一審判決を変更し、被告の都に対して母子に計66万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
「一部勝訴」となったものの、原告側が主張していた警察官による人種差別については認定されなかった。
「全く満足のいく内容ではない」。原告側弁護団からは、「判決でレイシャルプロファイリング(※)の問題に全く踏み込まなかったのは誠に残念だ」と落胆の声が上がった。
弁護団は上告を検討しているという。
(※)レイシャルプロファイリング・・・警察などの法執行機関が、「人種」や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に、個人を捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすること
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「警察官から人種差別」と訴えた母子の裁判、被告の東京都に66万円の支払いを命じる判決 東京高裁高裁、「個人情報の提供」のみ違法と認定判決によると、警視庁の警察官は、公園で原告の女性とトラブルになった男性から「民事訴訟を起こしたい」ため、女性の氏名や住所などの個人情報を教えるよう求められ、提供した。警察官は「女性の同意があった」と主張していた。トラブル相手の男性はその後、ネット上で女性の子どもの写真を添えて「殺人未遂犯」と記したり、差別的な文言とともに女性の名前や居住地域を記載した投稿を多数行なっていた。東京高裁は判決で、「(トラブル相手の)男性が控訴人らに対する差別意識から乱暴な言動を繰り返している人物であって、(中略)攻撃性の高い性質を持った人物であることも(警察官たちは)承知していた」と言及。
「男性が控訴人の個人情報を取得した場合には、これを悪用して、インターネット上の投稿やストーカーまがいの行為等の方法により、控訴人らの国籍、人種又は人格等に対する誹謗中傷をする顕著な危険性があることを認識し又は容易に認識し得た」と指摘した。
その上で、「控訴人の承諾があったとしても、男性に対して個人情報を提供してはならないという職務上の注意義務を負っていた」として、注意義務に違反し違法だと判断した。個人情報の提供は女性らに著しい精神的苦痛を負わせるものだとして、都に対して計66万円の支払いを命じた。一方、個人情報の提供以外に女性側が訴えていた警察官による一連の人種差別的な対応については、一審と同様に認められなかった。
警察官から「おまえ本当に日本語しゃべれねえのか」などと言われたという原告側の主張について、東京高裁の萩本修裁判長は、「公園に臨場したばかりの警察官がいきなり『おまえ』と呼びつけたり、『本当に日本語しゃべれねえのか』などと高圧的に申し向けたりするということは、110番通報に応じてトラブルの発生原因について捜査の端緒を得ようとする段階の警察官の所為として容易には想定し難い不自然なもの」だとして訴えを退けた。高裁の判決後、記者会見を開く西山温子弁護士(右)ら原告側弁護団判決後の記者会見で、原告側代理人の西山温子弁護士は高裁のこの判断について「裁判官は、警察官が外国人に対して差別的な言動をするのは『不自然、不合理だ』という経験則で判断している」と指摘。
「お母さんや目撃者の言うことは信用性に欠けて、警察の言うことの方が信じられる、というベースが一審判決から変わらなかったため、その事実認定のもとで判断がなされてしまった」と述べた。
弁護団の有園洋一弁護士も「通常の警察官はこういうことしないでしょうというような『想定し難い不自然なもの』だったからこそ、私たちはこの訴訟を起こしているのであって、こういった認定が現役の裁判官から出てくること自体が、公的機関による差別がきちんと認識されていないことを表している」と批判した。
また、トラブル相手の男性に対する個人情報の提供についても、女性側は同意していなかったと主張していたが、高裁は女性が同意していたと判断した。
西山弁護士は、「国籍や人種に対する誹謗中傷をする危険性がある(と裁判所が認めた)人物への連絡先の提供を、女性が承諾したということは、『不自然・不合理』ではないのでしょうか?」と疑問を呈した。
女性の子どもは事件後、心的外傷後ストレス障害の疑いと診断を受けた。女性は記者会見で、「娘は警察による不当な聴取とひどい取り扱いの後から、精神的な治療を受けています。男性を恐れるようになり、投薬なしには眠れないほどの悪夢を見ています。なぜ罪のない娘が正義を得られないのか、私には理解できません」と現在の心境を語った。個人通報制度や国内人権機関の必要性この裁判で原告側は、警察官らの一連の対応が人種差別を支持・助長するものであり、「異常なまでの圧迫的な扱いはレイシャルプロファイリングに当たる」と主張。人種差別撤廃条約にも違反すると訴えていた。
だが高裁判決は、「本件警察官らが控訴人らに人種、国籍に対する差別的意識や偏見に基づく対応をしたと認めるに足りる証拠はない」などとして、人種差別だとする原告側の訴えを退けている。
弁護団の中島広勝弁護士は、「裁判所が認定した事実だけで捉えても、トラブル相手の男性による人種差別を法執行機関である警察が支持し、助長したという点で、人種差別撤廃条約の違反は認められるはず。その点について判決で全く言及がないのは誠に残念です」と述べた。
その上で「この事案では、原告が人種差別撤廃条約違反だと主張したものの、それについて判断されず十分な救済が得られませんでした。個人通報制度(※)が日本に導入されていれば別の選択肢もあり得たため、そうした制度の導入も望まれます」と提言した。
西山弁護士は「こうした案件については、国際人権の観点から眺めなければいけないのだという発想が、裁判所ではまだ浸透していないのではないか」と指摘。「国際人権法の専門的な角度から、人権侵害であるかを迅速に判断する国内人権機関(※)の設置が急がれるべきです」と訴えた。
(※)個人通報制度・・・国際人権条約で保障された権利を侵害された人が、条約機関に被害を直接訴えることができる制度。各条約機関は日本政府に対し、同制度を導入するよう繰り返し勧告している。
(※)国内人権機関・・・政府から独立し、独自の調査権限を持つ人権救済機関。人権侵害の被害者が国内人権機関に申し立てると、同機関は事実関係を調査した上で、勧告などの措置をとることができる。世界では約120の国が設置しているが、日本にはない。(取材・執筆=國﨑万智)Related...【警察官へのアンケート】「人種差別的な職務質問」に関する体験・意見を募集します(レイシャル・プロファイリング調査)「警察官から人種差別」と訴えた母子の裁判、被告の東京都に66万円の支払いを命じる判決 東京高裁警視庁、職務質問中の原告発言の「誤訳」を認める。「露骨で悪質な行為」と弁護団が批判していた【レイシャルプロファイリング訴訟】...クリックして全文を読む
Saturday 18 October 2025
huffingtonpost - 1 days ago
一部勝訴も警察による人種差別は認定されず。原告女性「罪のない娘がなぜ正義を得られないのか」

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