Sunday 7 March 2021
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huffingtonpost - 11 days ago

「強くてエネルギーの塊のような主人公を」作家・王谷晶が描いた“シスターフッド小説”の最前線

不平等な制度や、男性優位な社会システム。現実の世界で、女性たちは何世紀も前から手を繋ぎ、変革を求める声をあげてきた。一方で、フィクションの世界で、現実の女性差別を織り込みつつ、その半歩先を描く物語が誕生している。MeToo運動や医学部不正入試の発覚、そして『82年生まれ、キム・ジヨン』のヒットを皮切りに、日本ではフェミニズムをテーマにした関連書が充実するようになった。作家の王谷晶さんは、2018年にシスターフッドによって貫かれた短編集『完璧じゃないあたしたち』で鮮烈な印象を残した。そんな王谷さんの最新作は、シスターハードボイルドと銘打った最新作『ババヤガの夜』だ。女性同士の連帯やつながりを起点に物語を描き続ける理由、新たな女性像で伝えたかったこと、そしてフェミニストとして表現する生きかたについて、王谷さんに聞いた。王谷晶(おうたに・あきら)1981年、東京都生まれ。2017年刊行された『完璧じゃない、あたしたち』に作家のブレイディみかこが「シスターフッドの万華鏡」と帯文を寄せて話題に。他の著書に女のカラダにかけられた呪いについて考察したエッセイ『どうせカラダが目当てでしょ』など。 女の「戦い」には理由が必要か?暴力が描かれるフィクションの世界では、女性は被害者であることが多い。DVを受ける。人質にされる。レイプ被害に遭う。そういった役割を振られるのは、往々にして女性のキャラクターだ。一方、『ババヤガの夜』の主人公である新道依子は、 強い女性 だ。大柄で鍛えられた肉体を持ち、粗暴ではないが屈強。趣味は暴力。日本のフィクションではめったに見ないタイプの女性キャラクターだろう。王谷さんは、小説で 強い女性 の主人公を描いた理由を語る。「肉体的な強さを持つ女性を主人公にした小説を、という構想はずっとありました。犯罪モノの小説や映画の女性キャラクターは、被害者の立場で描かれることが圧倒的に多いですよね。実際、現実の世界もそれに近いのですが、せっかくフィクションを描いているのに、 そこ をひっくり返す作品が少ないのでは、とずっと思っていて。戦闘美少女モノとは違う、自分が読者だったら読みたい物語というところから書き始めたのが『ババヤガの夜』でした」フィジカルもメンタルも強い女性――。さらに、「『闘う』ための動機が内から湧き出ている女性を描きたかった」のだという。「私は高校時代からアメコミが好きなんですが、アメリカのカルチャーにおいても女性がヒーローになるにはエクスキューズが必要とされてきました。夫や子どもが殺されたといった、「闘わなければならない理由」が必ずついてくるんです。もしくは、『ワンダーウーマン』のように女だけの島で育った神話的な最強美女戦士、という現実離れした設定か。でも、2020年代にもなって、そういうのはもうだせぇな、って。男性キャラはそうでなくても許されるのに、女性が力を振るうには世間が納得できる理由をいちいち持ってこないといけない。そういうのは、もういいんじゃないでしょうか。めちゃくちゃ強くって、純粋なエネルギーの塊のような主人公って、少年マンガでは定番ですよね。でもそういう女性のヒーローはまだまだ少ない。だからこそ、そういう女性を描いてみたかった」 乳房より腹筋に目が奪われるような「肉体」裸になったとき、胸よりも先に割れた腹筋に目がいってしまう。そんな新道依子の鍛え抜かれた肉体について、王谷さんは「重量感」を大切にしたという。「私自身はぽよんぽよん体型ですけど、レスラーとか格闘技をやっている女性のスタイルにはすごく憧れがあるんです。まるで金剛力士像みたいな、威圧感がある肉体ってかっこいいじゃないですか。新道のように物理的な意味で強い女性を描くのであれば、やはり暴力を振るえるだけの重量感は必要だろう、と思ってこうなりました」物語では、ケンカの腕を買われてヤクザに雇われた新道は、暴力団会長の一人娘の護衛を命じられる。娘の名は尚子。か弱く無表情で、18歳とは思えない古風な少女だ。新道と、尚子。護る側と、護られる側。ふたりの女性のコントラストは、イラストレーターの寺田克也が描いた表紙を見れば一目で伝わってくる。「コンビもので何が楽しいかって、対照的なキャラクターにできるところですよね。ただ、尚子が華奢で弱々しい外見であるからといって、中身もそうだとは限らない。世間から刷り込まれたイメージや価値観を、そのまま『これが自分』と内面化してしまうことってありますよね。尚子もそうだし、新道にだってそういう部分がある。誰しもが内面化しがちなものを、吹き飛ばすような、力技で剥ぎ取っていく。そんな部分もこの小説で描けたらと思いました」 「ルッキズムを破壊したい」目の大きさ、鼻や唇の形、髪の長さ、美醜や体型。王谷さんは、そういった容姿にまつわる細かい描写も、意識的に避けたという。「新道の容姿を細かく描写していないのは意図的です。顔が美人だブスだ、エロいエロくない 。そういった生身の女性たちが日常で下されているようなジャッジメントを、読者にさせないために。 『完璧じゃない、あたしたち』から意識している部分なのですが、女性キャラクターを描く場合には容姿の説明が必要、という風潮を変えていきたいんですね。小説からルッキズム破壊をしていきたい。ブスという言葉の破壊力にひるんで、顔を出すことを恐れている女性は多いと思うので」王谷さんは、SNSの普及は「女性のエンパワーメントに大きな意味があった」と考えている。「インターネットやSNSが登場したことによって、女性が男性と対等に渡り合えるフィールドができましたよね。これまでは面と向かって男性とコミュニケーションをとる場合、男性側の威圧的な振る舞いに、無意識的にでも緊張感をもって接していた女性は決して少なくないと思うんです。 でもネットというフィールドでならば、暴力に怯えることなく、本心を出せる。ちょっと物騒な言い方をすれば、(ハラスメントや性暴力などがあった場合)テキストで相手を公表することもできるようになった。もちろん、いまはマイナスな影響もあるのですが、女性の連帯やエンパワーメントという意味ではインターネット、SNSの普及はすごく大きな意味があると私は思っています」 アウトサイダーとして抱えた悩みもちろん、「すべての男性が敵ではないし、すべての女性が弱者ではない」と王谷さんは話す。男vs女という単純な構図に落とし込むことの乱暴さは、創作者として承知している。「『ババヤガの夜』も男vs女という単純な話にするつもりはありませんでした。この中で一番立場が弱いのは未成年で庇護されている尚子ですが、見方を変えれば(ヤクザの世界では)彼女はマジョリティ層ともいえる。暴力団の上層にいて新道の味方になってくれる柳という男も、表向きには強者ですが、ある側面ではマイノリティです。世の中は複合的だし、1人の人間の中にはいろんな要素がある。マイノリティにもいろんな層があるし、誰しもがどこかでマジョリティ性を持っているとも言えるのではないでしょうか」王谷さん自身も、幼少期からずっと「自分は本流から外れたアウトサイダーだ」という悩みを抱えていたという。「子どもの頃からずっとコミュニティの中で、意図せずしてアウトサイダーになりがちで。いっときは本流に混ざりたいという気持ちが強くあったのですが、努力してもなれなかった。コミュニケーション能力が低いせいか、集団生活や集団作業といったものがどうしても苦手なんです。自分が同性愛者であることは、普段そんなに意識してないんです。でもちょっとした瞬間にちっちゃな疎外感を感じることはままあって。たとえば、女性だけが集まった昼の雑談で『あ、この中で恋愛対象が男じゃないのは自分だけなのか』と気づいたり。それが悲しいわけではないんですけど。ただ、そういう自分であっても、日本に住んでいて日本国籍があること、健康で両親が存命なこと、シスジェンダー(心の性と身体の性が一致している)であること。そういったマジョリティ性をいくつも合わせ持っている。そこは認識しておきたい部分だと思っています」 「誰かの何かとして生きるのは、無理だ」 タイトルの「ババヤガ」は、スラブ民話に登場する「妖婆、鬼婆」を意味する。「誰かの何かとして生きるのは、無理だ」「お姫様よりも、タフで自由なババヤガになりたい」 その願いを叶えるために拳をふるい、逃れた夜の先に、ふたりはどんな自由を手にするのか。暴力と血にまみれながらもどこか爽快なシスターフッドの物語は、終盤にあっと驚くトリックが仕掛けられている。「小説の単行本って、人が2時間働いて得られるお金とだいたい同じくらいですよね。それならば 2時間の労働 に値するものを提供したい、という気持ちが強くあります」「だからこそ読者を驚かせたいし、楽しんでもらいたい。つまらないと思われてもいいけれども、薄味だとは思われたくないんです」王谷さんの既成概念をぶっ壊す挑戦は続く。現在は文芸誌で『令和元年生まれ ルリカ50歳』を連載中だ。「中年女性を主人公にした小説をどんどん書いていきたい」と語った。「タイトル通り、令和50年が舞台の近未来非正規独身中年女性物語です。40、50代女性が主人公のエンターテインメントってまだまだ少ないですよね。若い女性や老女が主人公の小説はたくさんあるのに。おばさんになってもハッピーで楽しいことはたくさんあるのに。小説と、私自身も楽しく生きていくことで、そのことを下の世代にも伝えていけたらと思っています」 (取材・文:阿部花恵 編集:笹川かおり) Related...“我慢をしない娘”は、専業主婦を選ぶしかなかった母親世代が育てた。 上野千鶴子×田房永子が語るフェミニズム「人間が好きならフェミニストなはず」フランスで100万部突破「三つ編み」の著者、日本を思う。私がフェミニストになった理由 How I became a Feminist...クリックして全文を読む


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