「難民が増えると治安が悪化するんじゃないか」「なぜ日本が難民を受けいられなければいけないのか」ーー。難民の受け入れをめぐりSNS上では最近、そのような不安の声が増えている。様々な投稿やニュースを目にし、「漠然とした不安」や「モヤモヤ」を感じる人も少なくない中、SNS上には難民に関する「誤情報」や「ヘイト」も増加している。難民をめぐるファクトや、故郷で迫害や弾圧に遭い、日本に助けを求めて逃れてきた人たちが置かれる厳しい状況について、どうすれば伝えることができるか。NPO法人「難民支援協会(JAR)」では、「『知らない』から生まれる不安を、『知る』ことで芽生える関心へ変えていきたい」「排除や分断ではなく包摂を」と、SNSや講座などを通じて、難民に関する情報を発信している。「不安や誤解を軽減できれば」14のよくある疑問に回答難民支援協会は、日本に逃れてきた難民を支援しているNPO法人だ。紛争や迫害などを理由に故郷を追われてきた人たちに、生活・法的・定住支援などをしている。東京都千代田区にある事務所には、日本に難民として逃れてきた人々に食事を提供したり、生活相談を実施したりするスペースがある。支援活動をする中で近年、難民を受け入れる日本社会側に対し、以前にも増して危機感を募らせていることがある。SNS上などでの難民に関する誤情報の多さと、それに伴う誤解やヘイトの増加だ。どうすれば、難民について正しい情報を知ってもらい、誤解や不安を軽減することができるのか。そう考え、協会のサイトやSNSで「難民にまつわるよくある質問」を発信している。View this post on InstagramA post shared by 認定NPO法人 難民支援協会(JAR) (@ja4refugees)Q&Aでは、「難民が増えると治安が悪化するのでは?」「税金が難民支援に使われて、納税者の負担増えるのでは?」など14の質問に回答。「『難民が増えると犯罪が増える』という統計的な根拠はありません」などとデータも引用しつつ、丁寧に答えている。どの質問も、実際によくSNS上で見られる不安や疑問をもとにしており、難民をめぐる基本的な情報から、国としての難民の受け入れや申請の制度まで網羅している。「働くことが目的で難民申請する人もいるの?」や「『不法滞在』の難民申請者がいるって聞いたけど…」など、ネット上の誤情報を目にし、不安に思う人たちの疑問に答える回答も多い。初めて難民に関するQ&Aを公開したのは、約10年前。それから随時、情報を更新し、近年ではSNSでも発信している。以前は、「難民に関心がない人にもまずは知ってほしい」と基本的な情報などを発信していたが、最近では内容にも変化があった。難民支援協会・広報の田中志穂さんはハフポストの取材に対し、以下のように話す。「この間の、難民に関する誤解や偏見、ヘイトが広がっている動きを受けて、よくある誤解なども加え、内容を見直しました。明らかに間違った情報についてはファクトチェックをしています。難民に関して、治安が悪化するといった根拠のない情報に基づいて、あるいは漠然と不安に感じたりしている人も少なくありません。間違った情報については正しい情報を伝えたいと思っています」クルドの人々めぐる記事も発信「誤解を解き、状況伝えたい」埼玉県で開かれた、クルド人の新年を祝うお祭り「ネウロズ」で、輪になって踊る在日クルド人の女性たち(写真の一部にぼかし加工をしています)最近特に、多くの誤情報が飛び交い、それをもとにヘイトの矛先が向けられているのが、埼玉県川口市や蕨市で暮らすクルドの人々だ。クルド人は「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれ、トルコ、シリア、イラク、イランにまたがって暮らす民族だ。いずれの国でも少数民族として差別を受けたり、冷遇されたりしてきた。シリアではその多くが無国籍の状態に置かれ、トルコではクルドの民族運動に対する軍や警察の弾圧が続いてきた。 日本にも、故郷での弾圧から逃れてきたクルドの人たちが暮らしている。埼玉県川口市・蕨市を中心に国内には2000〜3000人のクルド人が暮らしているとされているが、日本で生まれたクルドの子どもたちを含むクルド人コミュニティへのヘイトが激化している。難民支援協会は、そのような状況を受け、クルドの歴史や弾圧、難民として世界に逃れている状況などを約1万字の長文記事にまとめ、9月に公開した。海外のクルド研究者や蕨市などで支援活動をしている団体にも取材し、クルドの人々が置かれる厳しい状況について詳報している。「見過ごせないようなクルドの方への誤解やヘイトが起きている状況を受けて、誤解を解き、支援の現場から見える難民の人たちが置かれる状況についてきちんと伝えたいと思い記事を出しました」(田中さん) \新着記事/在日クルド人をめぐる「問題」を考える
「クルド人問題」とは、クルド人が「問題」なのではなく、問題はクルド人や難民を取り巻く社会の仕組みや構造です。無知や無関心が差別や暴力につながらないことを願って。まずは読んでみてください。https://t.co/bA0EForq92 難民支援協会(JAR) (@ja4refugees) September 22, 2025以前と比べ、SNS上でクルドの人々や難民に関する情報量も急増している。「クルドや難民の歴史や背景について知りたくて調べている人も増えているのでは」と考え、事実に基づいた情報を「知ってもらう機会を増やしていければ」という思いだ。政府の「不法滞在者ゼロプラン」により、護送官が同行し国費で行う強制送還を増加している。出入国在留管理庁の発表によると、うちトルコ出身者が最も多い。支援者らによると、クルドの人々の強制送還が相次いでいるという。「当事者の声が不在」の難民をめぐる議論。「代弁」する理由田中さんは、最近の難民をめぐる議論の中では「当事者の声が不在」だとも強調する。難民の背景を持つ人たちの中には、出身国で民族や宗教などを理由に迫害に遭って国を追われた人も少なくない。顔を公表してメディアなどで話す人もいるが、その結果SNSで激しいバッシングを受けることもある。それが、難民支援協会が難民の声を「代弁」して発信する理由の一つでもある。 長く当事者たちと日常的に接し、サポートをしている立場として、「人々が置かれる状況を代わりに発信していく必要がある」と感じているという。20年以上続ける「講座」。さらに詳しく難民問題を「知る」「考える」難民アシスタント養成講座の様子難民支援協会では、日々の発信よりさらに詳しく、日本の難民について包括的に伝えため、20年以上にわたり講座も開いてきた。「難民アシスタント養成講座」と題し、2001年の開講以来、3600人以上が受講してきた。今年も10月25、26日にも実施予定で、今回で45期になる。講座では、難民支援の最前線で働くJARスタッフや弁護士、研究者などから「緊急支援」「法律」「政策提言」「情報」などについての講義を受け、ディスカッションを通じて、日本の難民を知り、考え、「問いを手にする」ことを目指す。View this post on InstagramA post shared by 認定NPO法人 難民支援協会(JAR) (@ja4refugees)受講生は高校生から社会人、退職した人まで年齢の幅も広く、職業も会社員から弁護士、報道関係者、日本語教師、ソーシャルワーカーなど多様だ。学生も多く、受講生の2〜3割は大学生という。難民の背景を持った人たちも日本社会に増えてきている中で、会社のCSRや地域での活動、研究などで難民について関わる人も増えており、その中で「もっと知りたい」と受講する人も多い。受講卒業生にはその後、難民支援に関わった人もいる。講座では、ミャンマー出身の難民当事者から直接話を聞く機会もある。「実際に受講後、難民支援に関わらなくても、まずは難民について理解し、多様な視点や見方、問題意識を持つ人たちを増やしてこうと、講座を設計しています。難民問題は世界でも日本でも簡単には解決の目処が立たない、とても難しい問題。複雑な現実があり、さらに様々なヘイトや誤情報も広がる中で、『人の命を救うという難民保護、難民受け入れはどうすればより良くしていけるだろうか』という問いを手にし、向き合う仲間を増やしたいと考えています」難民に対する、その不安やモヤモヤはどこから?難民アシスタント養成講座の様子SNS上などを中心に難民に対するヘイトや誤情報、不安が広まる中で、今回の講座では内容をリニューアルし、ヘイトスピーチを専門とする弁護士などから話を聞く「難民×情報」の講義を加えた。「今のSNS上のヘイトや、多くの人が抱えてるモヤモヤや不安は、『難民当事者と接点があった上でそう感じている』というよりも、おそらく『難民と出会ったことがないけれども、なんかそういう話を聞いた』という人が多いのではないかと思います。そこで一旦冷静になって捉え直し、『私はどこから得た情報で不安に感じているんだろうか』『その情報の発信者は誰なんだろう。どういう意図で発信してるんだろう』と紐解きながら、モヤモヤの背景を探っていくことも大切です。そうすると、不足していた情報や観点などが見えてくるかもしれません」講座は「排除するのではなく、社会の一員としてどうしたら包摂していけるのか、どうその方向に向かっていけるのか」と共に考え、話し合える場となっている。10月25、26日に開かれる講座は、対面での受講は定員となっているが、オンライン参加はまだ募集中だ。過去に開催された難民アシスタント養成講座で話す田中さん(画面右上)日本も難民条約に批准している。国際的な条約に従って、難民を受け入れる意思を示しているということだ。しかし、G7各国と比較すると、日本の難民受け入れの割合は非常に低い。田中さんは「いつまでも『日本は難民を受け入れてない』『少ない』ではいけない。難民条約に加盟しているし、実際にインドシナ難民も受け入れ、2世や3世も日本で生まれ育ってる」とし、こう語る。「SNSを見ていると、そこがまるで世の中を形作ってるかのように錯覚してしまいますが、そうではないということも改めて認識したい。日本でも難民のバックグラウンドを持つ人も少しずつ増えています。皆がより良く暮らしていけるための取り組みを講座を通して学び、皆で考えていければと思います。 今、様々なマイノリティ性を持つ人たちが息苦しい社会になっている中で、難民という弱い立場に置かれた人たちとの関わり方を変えていくことで、皆がよりよく共に生きていけるかを模索することに繋がり、社会も良い方向に変わっていくのではないかと思います」(取材・文=冨田すみれ子)【あわせて読む】どうしたら難民と共に生きる日本社会をつくれる?ビジネスリーダーたちが始めた新しい連携の「輪」とはRelated...街の強みは「多様性」。大久保の街で40年以上続く祭り、いま共に盛り上げるのは韓国やベトナムの人々どうしたら難民と共に生きる日本社会をつくれる?ビジネスリーダーたちが始めた新しい連携の「輪」とは「不法滞在者ゼロプラン」の裏で、存在自体が「違法」とされてしまう子どもたちに今、起きていること...クリックして全文を読む
Thursday 16 October 2025
huffingtonpost - 11 hours ago
「難民増えると治安が悪化?」誤解や不安減らすため、疑問に答える理由。クルド人についても発信。難民めぐる不安やモヤモヤはどこから?

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